2019.2.11月

 〇ラウニ・モルベルイ「若き兵士たち 栄光なき戦場」(1985)@ユーロスペース。トーキョーノーザンライツフェスティバルでの一本。
 僕は北欧映画はそこそこ観ているものの、実は北欧のことはよくわかっていない。アイスランドに関しては、山室静の著作で特に文化面について教えられたが、北欧三国で知っていることと言えば、その位置と、スウェーデンが映画大国だということ、ムーミン童話がスウェーデン語で書かれたフィンランドの作品だということくらいしかない。僕の知識は北欧で十把一絡げだ(きっとデンマークも混じっていることだろう)。他に、紀伊国屋で売られているフィンランド風のライ麦パンが大好きだなのが、その特徴もよくわかっていない。欧米の一般的な人が日中韓の区別がついていないと言われるが、それと同じようについていないだろうと思う。
 今回、三時間越えのこの大作を観て、また作品解説の講演を聴いて、フィンランド近代の輪郭やフィンランド人の思いが朧気ながら見えてきた気がして、とても勉強になった。特に北欧諸国のみならず、ロシアとドイツとの微妙な関係について教えられた(このことはトム・オブ・フィンランドの伝記映画にも描かれていたはずだが、素通りしていた)。これからもっと北欧各国について知らなければいけないと思った。
 なお、チラシには記載されていないが、上映プリントは国立映画アーカイブ所蔵品とのこと。昔の北欧映画祭での上映のために日本に輸入されたものらしい。かつて映画祭で海外作品を上映しようとすると、フィルムを入手して日本語字幕を焼き付けるという工程を経なければならないので、すごい手間と時間と費用が必要だったが、現在では字幕の投影技術が発達したおかげで、デジタルにせよアナログにせよ、素材を借り受ける(あるいはコピーする)だけで済み、負担もぐっと少なくなって、上映の敷居が格段に低くなった。しかし、その結果、国内にフィルムが一切残らなくなった。もちろん、上映後に廃棄され失われた場合も多いだろうが、運よくフィルムセンターに寄贈され保存されたものも結構ある。このプリントもそうした貴重なものの一つだが、残念なことにかなり褪色が進んでいる。やはり全編をくっきりした色彩で観たかった。
 それにしても、このプリントの褪色の不揃いはかなり不自然で吃驚する。ほとんどの場面は褪色しているのだが、一部だけ鮮明になる。それも、若い兵士が半裸でじゃれあったりする、ある意味官能的な場面に限ってそうなるのだ。邪推すると、これはおそらく、そういうホモエロティックな描写に対して、何らかの検閲で削除したとか、誰かが切り取って着服してしまったとかの理由で欠落した版がまずあって、それに欠けた部分だけを、新しく焼いて継ぎ足したのではないか。だとすると、きっと日本に来た時点で継ぎ接ぎだらけだったのだろうと思う。
 ところで、モルベルイという表記は、先に話題にしたベルイマンと末尾が同じ綴りだ。そもそもこれはスウェーデン系の苗字らしい。スウェーデン語では語末のgは英語のyのように発音するとされているが、フィンランド語ではどうなのだろう。ベルイマンなる表記に引き摺られているような気もするが。