2018.11.25日

 〇勤続十年の特典として会社よりもらった旅行ギフト券三万円分を、今月中に使ってしまわないと、賞与扱いになって税金を差し引かれるというので、無理矢理ツアーに出掛ける。と言っても、僕には連休は見込めないので、日帰りはとバスツアーに複数回、出掛けることにする。せっかく予約していたものが集客不足のために催行中止になったりもして、いささか手続きが面倒になったが(領収証を貰うのに)、まずは母親を引き連れて、川崎工場地帯の夜景クルージングへ行く。
 小型船に乗り、運河から眺める工場夜景は、昨今のイルミネーションを期待すると、全く地味な印象だが、その静謐さが魅力と言えば魅力的だ。目の前に広がる光景は紛れもない現実ながら、思わず近未来的と形容したくなるが、それは全く人気がないからで、まるで人類が絶滅した後でも機械が稼働し続けている終末世界を見せつけられているような錯覚に陥り、段々と不気味になって来る。薄闇の中、方々に立つ高い煙突の先端から、余剰ガス廃棄のためだけに燃やされた青や赤の炎が、突如として放出され、ちらちらはためくのも戦慄的だ。近くにまで行くと、寒空なのに、瞬間的に熱気まで伝わって来るのがすごい。この違和感は面白く、得難い体験だった。写真をばんばん撮りまくるが、船に揺られてブレまくり、普通の写真は撮れなかった。それもまた良し。
 その後は、ディズニーランド近くの高級ホテルにて、ビュッフェ形式の夕食。多種多様な料理やデザートに目を見張る。僕はやはり貧乏人根性を出してしまって、こうした機会でもなければ食べられないようなものを中心に、ここぞとばかりに鱈腹食べまくる。いろんな料理を一通り味見できたのは良かったが、どれもすごく美味しいとは思わなかった。多少の好奇心は満たされたが、無意味に食べ過ぎたという感じがして、最後には少々空しくなった。
 帰りしなに、値段のパネルを確かめると、通常であれば日曜日価格で六千円とあり驚愕する。時折友人たちと一緒にこうした所に行く母によると、ビュッフェ形式の食事は普通かなり混んでいて、欲しい料理もすぐになくなってしまい、ストレスを感じることが多いので、今回はすごく良かったそうだ。なるほど、ここはよっぽど高級なのだろう。それにしても、この程度の客数で、多様で多量の食事を用意するとなると、どれだけ大量の料理を余らせ、廃棄することになるのだろうか。高額なのだから、経済的には元は取れているのかもしれないが、とんでもなく無駄な気がする。客の方も、僕も含めて、欲望や消費行動を煽られて、必要以上に過剰に食い散らかして、かえって自分の健康を損ねている。おぞましい負のスパイラル。ビュッフェ形式や食べ放題の食事には、二度と参加すまいと思った。
 後一つ印象に残っているのは、同じツアーに行っていると言うのに、参加者が単位ごとにそれぞれにバラバラなこと。同じ体験をしているのに、何の接点も交流もない。僕は多少はそういうことを気に掛けていたのだが、何も考える必要はない。主催者側でもそのことは十分に認識していて、各単位が互いに気兼ねしないで済むように、細心の注意を払い、予防線を張っている。まるでやるべきマナーを外からいちいちアナウンスしてくれる昨今の電車内のようだ。楽と言えば楽だが、最初から何も起こらないと前提にされてしまうのも、何だかつまらない気がする。歩いても棒に当たらない、当たれないのは、少々勿体ない感じがする。